過去に学び、今日を生きる
前回は東日本大震災を振り返り、過去の国難からポストコロナを生き抜くヒントを探っていった。その中で「支え合う」という言葉が多く出てきた。「支え合う」と言われて、パッと思い浮かぶことは、“人は支え合って生きている”というよく聞くありきたりなフレーズである。ありきたりとは言え、非常に大切な考えであることは誰もが知っている。知っているが普段は意外と意識ができないことでもある。
新型コロナにより経済が大きなダメージを受けた。特に飲食・観光業界の悲鳴は日々大きく報道されており、誰もが知るところである。また、多くの関連業界も同じようにダメージを受けている。このことは誰もが分かっていると思うが、コロナ禍でなければ、自分と関係のほど遠い産業に関しては、意識することもなかったのではないだろうか。今回のパンデミックにより、人が生きる全ての営みは何かとつながっていること、まさに「支え合っている」ことを教えられた。
今回は、観光業の中でも多くの産業と関りが深い旅館業を中心に「喜多方のポストコロナ」を見ていくこととする。
喜多方市は蔵とラーメンの街として全国的に有名で、毎年多くの観光客が来ており、福島県内屈指の観光都市である。今回の新型コロナの影響により、人流が停滞し観光客が激減した。GOTOトラベルなど国や県の施策もあったが、感染が全国に拡大してそれもストップしてしまった。
「今日を生き、明日を考える」
去る7月13日に「喜多方のポストコロナ①~旅館業から見たコロナ禍と喜多方の未来~」と題して、地域の観光について、互いの考えを語り合った。
リモートでも良かったのかもしれないが、感染数も少し落ち着いていた時期だったので、あえてリアル開催とした。
第一部は、「旅館業から見たコロナ禍と喜多方の未来」というテーマで、熱塩温泉山形屋の瓜生真吾君に語っていただいた。
まずは旅館の歴史からスタートした。日本の旅館文化には千年以上の歴史があると言われており、特に「湯治文化」や「お伊勢参り」などを支えながら発展してきたとのこと。伊勢参りというのは、その名の通り伊勢神宮への参拝だが、実態はほとんど観光目的の旅行だったと言われているそうだ。確かに言われてみれば、有名な神社の参道付近には、様々な店が立ち並び、その地域の観光の中心になっていることも少なくない。
では観光とは何か。観光とは、その土地に住む人の気質や気候、風土などを基礎として発展してきた文化や歴史などを体験することである。その体験が観光の魅力であるとのことだった。また行きたいと思う旅先や誰かに土産話をしたくなることは、その土地で良き経験があったからということだなと思った。
次に具体的な現状を教えてもらった。日本のGDP(国内総生産)の約7%が旅行・観光産業であること。また、宿泊業は地域内調達率が50%を超え、地域経済への波及効果が大きい業種である。震災から10年が経過し、福島県内の観光人数がようやく震災前の数字に追いついてきたところで、新型コロナの影響により著しく低下してしまった。
※域内調達率とは…観光客が地域の中で消費した金額のうち、地元の素材、地元の労働者など、「地元に還元される部分」の購入によって消費された額の割合。
余談になるかもしれないが、7月4日に行われた福島ブロック大会で平沢復興大臣・内堀県知事・相双地区の高校生のパネルディスカッションで、大臣と知事が「帰還困難区域がまだ2.4%も残っており、0になるまでは復興とは言えない、復興とは元に戻すことではなく、元以上にすることである」と語っていたことが思い出された。ポストコロナを生きることも同じことが言える。
最後に、これからの喜多方の観光やまちづくりについて語っていただいたのだが、これは瓜生君の言葉をそのまま掲載したい。
喜多方の観光の課題
私は、喜多方の最大の課題は、観光を行う人財が不足している点であると考えています。観光に携わる人々は、観光は大事だという共通認識はありますが、喜多方の観光を盛り上げるための具体的な方法が分からないというのが本音だと思います。そのために重要になってくるのが「ビジョン」です。観光資源は思索するのではなく街をどのようにしたいかという「ビジョン」を描くことが重要です。「ビジョン」を共有させなければ一人一人のベクトルを同じ方向に向けることができません。また、資金とは観光によって稼ぐ力のことです。この稼ぐ力がなければ、持続的なまちづくりを行っていくことはできません。
目指すべき街づくり
・若者もお年寄りにもストレスなく住めるようにユニバーサルデザインな環境を整えていくこと。
・また、若者が自ら発想を行動に移せるような機会の提供や環境を作ることが必要。
・住んでいる人々が住みやすい街づくりを意識していく。そして、住んでいる人が観光を意識していくことも大事。
喜多方の良いところ魅力的な部分を住んでいる人だけの目線だけではなく、訪れる人にとっても魅力に感じる部分を全体のほんの一部分でいいので、まずはそこから創っていくことだと考えています。
「コロナ禍における心の変化」と「喜多方の観光の理想像」
第2部は参加者全員でグループディスカッションを行った。
テーマは「コロナ禍における心の変化」と「喜多方の観光の理想像」の2つを用意した。各々の現状を聞き、未来について語る…過去、現在、未来に対して思うことを言葉にして具体的にしていくことがねらいである。
心の変化を聞いていると、流行初期段階は「仕事に対する不安」、「人に会わなくなって寂しい」、「人を疑いやすくなった」、「コロナだからと言って諦めやすくなった」というネガティブな言葉が大半だったが、少し時間が経ったころには、「このままじゃいけない」、「遠出しないのでより地元に目を向けるようになった」、「未来について考えることが多くなった」など、少しポジティブに変化してきたことが分かった。そのきっかけは何だったのだろうか。青年会議所は経営者が多い団体であるので、経済活動の低下を改善しなければならないという状況に迫られたことと、日々まちづくりに対して考えを持っていたからではないかと思う。
次に「喜多方の観光の理想像」について聞いた。「歴史的資源の活用」、「住民と共に観光を盛り上げていく」など、第1部で瓜生君が語ってくれたことに近い内容だった。一方で「住みたい街」と「観光したい街」はイコールになるとは言い切れないなど、新たな視点を知ることもできた。コロナ禍ということもあり、自分の思いを誰かに伝える機会がなかったので、今後もこのような機会を増やしていきたいと思う。
繰り返しになるがこの言葉を伝えたい。
「観光とは、その土地に住む人の気質や気候、風土などを基礎として発展してきた文化や歴史などを体験することである。」
文化や歴史を体験することとは人との関りである。観光地の史跡、施設、飲食店、宿など、どこへ行ってもそこの人と関係性が生まれる。その文化や歴史は、その土地に住む人々の営みである。だからこそ、この地に住む皆さんには観光、ひいては地域の発展に目を向けていただきたいし、青年会議所はそうなるよう日々活動していかねばならない。
「明日のために」
「過去から学び、今日のために生き、未来に対して希望をもつ。
大切なことは、何も疑問を持たない状態に陥らないことである」
有名な科学者が残した言葉である。私たち(この地域に住む人々)は、未来に対して希望を持ち、共に行動することが大事である。
次回は角度を変えて、地域の芸術文化について考える。コロナ禍において芸術活動の在り方が変わってきた。地域と芸術の関りや必要性などを探っていきたいと思う。
福島ブロック大会について
7月3、4日に第51回福島ブロック大会in相馬が開催されました。今般のメインフォーラムは「地域の明日を切り拓く青年フォーラム」と題し、平沢勝栄復興大臣と内堀雅雄福島県知事をゲストとしてお迎えし、福島ブロック協議会会長佐々木公一君との対談並びに相双地区の高校生4名とのディスカッションが行われました。これまでとこれからの福島への思いや今後の福島の展望を中心に、市民が考える地域の未来についてディスカッションを通し共有し、市民と共に描く愛と希望に満ち溢れた幸福な福島の実現へのヒントを探る機会となりました。
当日の様子はYouTubeで観ることができますので是非ご覧いただければと思います。こちらから
次回は、「喜多方のポストコロナ②~心と向き合う~」と題して、芸術とコロナについて語ります。